網膜剥離

網膜剥離とは

網膜は0.2ミリの眼球の内側にある膜で、角膜から入った光や情報を信号にかえて神経によって脳に伝えるカメラでいうフィルムに当たる部分です。この網膜が眼底からはがれてしまうのが網膜剥離で、網膜は眼底にある毛細血管から酸素や栄養を受け取っていますので、剥離を起こすとそれらが供給されなくなります。これによって網膜の機能は低下して、視野狭窄や視野欠損などがおこります。


眼底から網膜が剥がれても、網膜には痛覚がなく痛みを感じることがありませんので、剥離がかなり進行するまで気づかないケースも多くみられます。
網膜剥離は原因によって3つに分けることができます。
網膜に穴が空いて起こる裂孔原生網膜剥離、糖尿病などで眼の中に悪い膜(増殖膜)ができてそれにより引っ張られて発生する牽引性網膜剥離、炎症反応や黄斑変性などで網膜から水が染み出してしまい発症する漿液性網膜剥離、全て治療法が異なります。
進行すると後遺症が多く残りますので、早期発見・早期治療が重要になってきます。定期検診などで少しでも異常があったり、初期の自覚症状としての飛蚊症があったりしたら迷わず当院にご相談ください。
一般的に網膜剥離というと、裂孔原生網膜剥離を指しますので、このページでは裂孔原生網膜剥離について述べます。

網膜剥離の原因

裂孔原生網膜剥離が発症しやすい年齢は生涯で2度あります。
1度目は20歳代前後です。20代の場合は近眼の方に起こりやすく、近視の方は眼軸長といって眼の長さが正常人より長く、そのため眼球が膨らんでいる状態であり、網膜そのものの厚さが薄いです。その結果、網膜格子状変性という硝子体との癒着が強い場所が裂けたり、網膜が薄くなりすぎて萎縮円孔という穴が開いてしまうことがあります。その穴から網膜の下に水が入り込み、網膜剥離が発生します。しかしながら、20代の方の硝子体は非常に硬く、入り込む水も粘稠で進行が遅いことがほとんどです。結果、本人では気づかず、検診を受けたときなどに偶然に発見されることがほとんどです。
2度目は50歳前後です。加齢によって眼球を満たしている硝子体は徐々に収縮していきます(後部硝子体剥離という正常の変化です)。眼球を満たしていた硝子体が収縮し、網膜から離れてしまう際、硝子体と網膜の癒着が強い方は、硝子体に網膜がくっついたまま引っ張られることによって、網膜が裂けたり孔があいたりすることがあります。強度の近視の方は眼軸長が正常人より長いため、この後部硝子体剥離を起こしやすく、孔の発生率も高くなります。この裂け目や孔から硝子体に含まれる水分が網膜の裏に流れだすと、網膜は眼底から浮き上がってしまい網膜剥離がおこります。前述した20歳前後に起こる網膜剥離と違い、この網膜剥離は孔から流入する水がとてもサラッとしており、どんどん水が入ってしまうため非常に進行が早いです。孔のできる位置でも症状と進行状況が違います。孔が下の方では網膜が下から剥がれてくるため、視野としては上の方から黒いカーテンがかかってくるように見えなくなってきます。逆に孔が上の方に存在しますと、重力の影響で剥がれるスピードが速く、視野も下からかけてきます。いずれにしても非常に進行が速く1日2日で手術の成績が変ってしまいます。網膜剥離治療を行う医師は非常に少ないため、まず診断されると大学病院などへの紹介を受けます。しかしながら、その時点で時間が経過し、翌日に受診したとしてもその日に手術を受けられることは稀で、1週間後ということもあります。さらにそこで登場した執刀医師も経験が豊富とは限りません。技術の差が激しい手術ですのでこの限られた時間の中でいかにいい執刀医に巡り会えるかが手術の成績全てなります。
その他、格闘家やボクサーなど眼球に強い衝撃をうけたり、アトピー性皮膚炎など別の病気が原因でおこることもあります。これらの治療も専門的な技術が必要です。

網膜剥離の症状

発症の初期段階では、視野の中を虫やごみのようなものが飛び交ってみえる飛蚊症や、光のないところで目のなかに閃光のようなものが見える光視症が前兆のようになることがあります。必ずしも飛蚊症や光視症だから網膜剥離とは限らないのですが、このような症状が頻発したり、飛蚊症のゴミのようなものが増えてきたりなど、気になる症状が起こったらまずはご相談ください。
網膜剥離が進行すると、視力が低下する、ものが歪んで見える(変視症)、剥がれた部分の視野が欠損するなどの症状が起こり、そのまま進行すれば失明に至ってしまうこともあります。
網膜が剥がれてしまっても、痛みを感じることはありません。そのため網膜剥離もかなり進行するまで気づきにくい病気の一つといえますので、高齢の方や糖尿病などと診断された方は定期的に検査を受けることをお勧めしています。

網膜剥離の治療方法

網膜剥離は投薬などの内科的療法では治すことができず、手術による治療となります。
網膜剥離そのものは世の中に少なく、経験数が多い医師が圧倒的に少ないため、手術はとても難易度の高いものになります。しかしながら、経験豊富な医師の間では近年の技術の進歩によって、早期治療であれば剥離した網膜と眼底を再び密着させる復位の成功率は90%を超えるようになりました。
手術の方法としては、硝子体手術と強膜バックリング手術の2つがあります。院長は網膜硝子体手術のスペシャリストです。

硝子体手術

白目の部分に小さな孔をあけ、専用の器具と照明を挿入し、剥離の原因となっている硝子体を吸い出します。その後、特殊なガスを眼球内に注入し、ガスの浮力で網膜を眼底に密着させるようにします。
そのため、網膜が定着するまで3日から1週間程度、うつぶせや横向きでで過ごす必要があります。
技術が未成熟な医師が行うと合併症が多く問題ともなっていますが、当院では硝子体手術エキスパートの院長が行いますので、局所麻酔で20分程度の手術です。当院では全てを日帰り手術で問題なく施行しています。

強膜バックリング手術(強膜内陥術)

網膜が剥離した位置にあわせて眼底の外側の強膜を人工的に陥没させて網膜と密着させる方式です。強膜を網膜と密着させるために、剥離部分の裏側から柔らかいシリコンの棒を縫いつけます。
眼底と網膜が密着したら、陥没部分の強膜を冷凍またはレーザー光凝固術で凝固させ、固定します。歴史のある治療法で、流れとしては硝子体手術に移行してきていますが、名手が行えば若い方などにも利点もあります。

いずれの治療法も初心者中級者が行うと大きなトラブルを起こすことがありますので執刀医選びがとても重要です。

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